イノベーションする公共図書館−1
*コメント・URLは選考時のものです

選考者のつぶやき(財団法人AVCC 普及啓発部長 丸山 修)

 「成長」とは一般的に木や草など植物が伸びて大きくなったり、小さかった子どもが少年や大人になって体が大きくなったり、経験を積んで精神的に安定した、というような現象を指している。あくまで木は木であり、人間は人間であることには変わりはない。一方「発展」とは農業社会から工業社会へ、工業社会から情報社会へといったように、内容のチェンジが伴う場合に用いられる。また、最近、よく耳にする言葉に「イノベーション」があるが、これは「新しい技術や考え方を取り入れて新たな価値を生み出し、社会的に大きな変化を起こすことを指す」(ウィキペディア)ともいわれている。

 今回のgoodsiteは、かつていわれたことがある「成長する図書館」や「発展する図書館」でもなく、「イノベーションする図書館」という視点で最近の公共図書館の活動とそのWebサイトを探索し、紹介することとした。ここ10年ぐらいビジネス支援図書館、課題解決型図書館、役に立つ図書館など、図書館のあり方や拡充すべき機能やサービスはかなり明解となり、果敢にそこに踏み込んだなかから公共図書館のイノベーションが起こりつつあると、いま感じている。デジタルアーカイブや貴重資料の公開、地域の情報拠点などの視点からすでにgoodsiteに取り上げてきた図書館もあり、今回、取り上げた図書館だけがイノベーションという視点に相応しいわけではないが、鳥取県図書館、愛知川図書館、千代田図書館は、これまでの図書館モデルとは異なる新しい図書館モデルといえるのでは。広島市立図書館、石狩市民図書館はイノベーションというにはやや大袈裟かもしれないが、それぞれのスタイルでイノベーションする潜在能力があると期待している。




【鳥取県立図書館】
http://www.library.pref.tottori.jp/
 日本の公共図書館界をリードしている鳥取県立図書館のWebサイトはエネルギッシュ。企画事業やサービス内容の情報発信が多彩で図書館活動の活気がホームページ上にもほとばしっている。「図書館で夢実現しました大賞」(21年1月20日締め切り)は、利用者が図書館で得た情報をもとにして、それが商品開発や技術開発、起業、創業につながった事例を発掘・公開することで、図書館の活用方法を進化・発展させ、図書館が生活やビジネスに役立つ機関だとアピールする本邦初めての試みか。応募原稿は委員による審査のうえ最優秀賞、優秀賞、優良賞などが選定され、成功までの道のりをプロの漫画家が漫画にしてプレゼントしたり、優れた図書館の活用事例として図書館のホームページで紹介していく予定とか。また、観光や文化をテーマにしたの他県の図書館との相互展示プロジェクトも図書館同士のネットワークを生かした地域活性化事業として注目される。昨年は徳島県立図書館で「雪のある風景を楽しむ! 鳥取県の冬景色」&「生田春月展」。愛媛県立図書館で「漂泊の俳人 放哉と山頭火 〜放哉の故郷 冬の鳥取への誘い〜」。また、高知県立図書館、香川県立図書館でも鳥取県の観光は文化をアピールする展示を行っており、今後は鳥取県立図書館を会場にこれらの県立図書館が各県をアピールする企画展を行う計画だ。法情報・裁判員制度、医療・健康情報、ビジネス支援情報など暮らしや仕事に役立つ情報・資料の提供にも積極的に取り組んでいる。2006年第1回ライブラリー・オブ・ザ・イヤーを受賞。

【愛荘町立図書館 愛知川図書館】
http://www.town.aisho.shiga.jp/lib/
 愛荘町立図書館は平成18年2月、旧滋賀県秦荘町と愛知川町が合併、愛荘町が発足したのに伴い、それまで別々だった町立図書館が一つの行政組織に統合され、愛知川図書館と秦荘町図書館の2つが構成されている。公共図書館の世界では、旧愛知川町立図書館(現・愛知川図書館)は住民参加型の地域情報拠点として注目されており、“図書館はまちづくりのプロデューサー”をモットーにいくつか興味深い取り組みを行ってきている。その代表的なこととして、日々変化し明日にはなくなっているかもしれない「まちの風景」を集めて発信していく活動である「まちのこしカード」や「愛知川歴史写真館」が上げられる。これは愛知川図書館付近の自然や風景、生活の記録をデジタル化して保管し公開しているもので「まちのこしカードWeb版」では、ホタル、メダカ、ハリヨ、カワセミ、キツネ、ナマズといった生物の生息情報や、お地蔵さん、かやぶき屋根、石垣、蔵、柿の古木、手押しポンプといった生活文化情報を、市民がネット上の情報登録フォームに登録し、公開していく運動。図書館は、まちのエリアのどこで、いつホタルが発見されたかといった、その地域ならではの情報が住民自身の手により集まる仕組みを提供している。「愛知川歴史写真館」は図書館がむかしの愛知川町に関する写真を収集し、町史編さん室が特に貴重な古い写真をデジタル画像として保存のうえ公開。公開された写真をもとに、被写体の行事や出来事、場所などの内容や撮影された年代などの情報を住民がメールで提供するという活動。こうした住民参加型の情報の収集・蓄積・公開の仕掛けと仕組みを用意し、運営しているところが、まさに「図書館はまちづくりのプロデューサー」たる由縁か。2007 第2回ライブラリー・オブ・ザ・イヤー受賞。

【千代田Web図書館】
https://weblibrary-chiyoda.com/
 千代田Web図書館は、22時までの夜間オープンや出版社や書店との共存共栄を旗印に掲げて2007年5月にオープン以来、図書館界の構造改革として注目を集めている千代田区立図書館が運営するサイト。電子図書をインターネットにより貸出・返却するサービスなので、利用者は自宅等のパソコンで24時間365日いつでも電子図書の貸出・閲覧・返却が可能。1回の貸出冊数は5冊までで、貸出期間は2週間。2週間を過ぎると自動的に返却処理される。物理的図書館によくある返し忘れや意図的な延滞は発生しない。ただし、他の人の予約が入っていない場合は1回だけ1週間に限っての延長は可能。また、電子図書を閲覧するにはビューアーをダウンロードして活用する。さて、注目される電子図書の蔵書だが、2008年7月時点で、青空文庫、総記、哲学、歴史、社会科学、自然科学、技術、産業、芸術、言語、文学約3000タイトル。本の閲覧はWbook(ダブルブック)という電子書籍で行う。Wbookには大きくテキスト、マルチメディアに対応したXML形態、書籍のレイアウトをそのまま維持しているPDF形態、動画やサウンドなどで構成されたFlash形態、そして雑誌やカタログなどイメージをそのまま生かすImage book形態の4つの形態があり、閲覧中の機能としては電子図書の形態によって違いはあるが、全文検索、参照、付箋・メモ機能などが使用できる。特長はなんといっても図書の破損・紛失・盗難・延滞などの問題がなく、書架や保管庫などのスペースを必要としないこと。ただし、基本的にコピー&ペースト、印刷については著作権保護の観点から使用することができないし、一冊の電子図書は一度に一人しか利用できないデジタル著作権管理(DRM)システムにより運営されている。2008年第3回ライブラリー・オブ・ザ・イヤー受賞。

【広島市立図書館】
http://www.library.city.hiroshima.jp/
 広島市図書館のWebサイトは公共図書館のなかでかなり情報が多彩なサイトとして目にとまった。中核施設の中央図書館を筆頭とする12館で市の図書館ネットワークが構築されているが、地域館とは性格を異にする「こども図書館」「まんが図書館」なるテーマ館が2館存在していることや、被爆から立ち上がった平和都市、あるいは古くから中国・四国地域の政治・経済・文化の中心都市だったということなどから情報・資料の収集・保存・提供が極めて多彩なことが、Web上の情報にも現れているように見受けられる。2008年からは教育委員会と共同で、学校が平和教育で実施してきた「地域の被爆体験継承事業」による被爆体験談の記録ビデオの収集と保存にも取り組んでいる。現在、1995年、96年に小学校で行われた3人の被爆体験談のビデオが公開されている。また、Webギャラリーでは旧広島藩主浅野家から寄贈された和漢の古書・図記類を収蔵した浅野文庫や、被爆に関する資料を集めた被爆文献資料などの特色あるコレクションから、元(中国)の画家呉太素による梅画の技法書「松斎梅譜」、元広島藩主浅野家に伝えられた日本各地の古城図「浅野文庫蔵諸国古城之図」、広島藩士で絵師としても活躍した岡岷山(おか びんざん)が作成した「都志見往来日記・同諸勝図」、広島藩内の名滝といわれた46景が涼やかに描かれている「芸備諸村瀑布図」などを画像を中心に紹介している。このほか「お知らせ」のコーナーでは子ども向けイベント、資料と連携した企画展、社会的なテーマを取り上げる講座などの情報が満載されている。

【石狩市民図書館】
http://www.ishikari-lib-unet.ocn.ne.jp/tosho/topPage.html
 本サイトの特長は、市民図書館を標榜するだけに図書館で活動する市民やボランティアたちの活躍や、職員の奮闘ぶり、市民に楽しみや文化的教養を提供する上映会イベントなど、市民本位の運営ポリシーがサイトのあちこちから垣間見れる。「講座・絵本を楽しむ」「名作を楽しむ会(DVD上映会)」「おはなし会」「あかちゃんと絵本のへや」など毎月の定例的な事業に加え、年に一度の図書館まつりの情報は楽しめる。2008年11月2日、3日に行われた第9回図書館まつりは「みて きいて あそんで 楽しもうビッグゥ〜!な本箱」と題していて石狩市民図書館祭りは賑やかだ。オープニングセレモニー、「人形劇公演」(人形劇団ひよっこ)、「おはなし会」(石狩市文庫連絡会)、「名作を楽しむ会」(DVDアンコール上映会)、「マジックショー」(北大奇術研究会)、「おはなし会」(ボランティアびっくりばこ)、「サックス アンサンブル コンサート」(石狩南高校吹奏楽部)、「ハママシケ場所・アツタ場所関係文書を読む」(村山家文書を読む会)、「本が修復されるまで」(図書館修理ボランティア)、むかしあそびコーナー」(伝承あそびボランティア「おてだま」) など図書館に関わる様々なボランティアグループ、研究グループ、地域の文化活動グループが参画したお祭りとなっている。このほかいろいろな視点から本をテーマ開催している図書館講座も工夫されている。

-UP-