実務ノウハウと創造性の還流を推進するサイト
*コメント・URLは選考時のものです

選考者のつぶやき(財団法人AVCC 普及啓発部長 丸山 修)

 今月のgoodsiteは研究活動から生まれる知の情報発信と事業活動から生まれる知の情報発信について並行してサイト調査を行い、実務ノウハウの知と創造性の知について取りまとめたサイト選びとなった。

 セミナー活動、相談対応など実務ノウハウ面が充実しているのは、「神奈川科学技術アカデミー」と「すんぷ繁盛横町」の運営メンバーである静岡市の産学交流センターなど地方公共団体がらみの機関。ホームページのコンテンツ内容も商業や製造業などの現場で実務的に役立つ内容のものが目立つ。こららと比較すると国立機関は全般的にスケールが大きくアカデミックであり、研究活動の素晴らしさ自身は認めざるをえないものの、総じてその成果の公開や役に立つ知財の還流という側面では、もうひとつ踏み込みが足りないようにも感じられる。

そんな中で、今回選ばせていただ理化学研究所と宇宙航空研究開発機構(JAXA)は教育的価値の高い映像資料、画像資料の公開という点で高く評価できるように思う。映像アーカイブが進んでいるこれらのサイトを遊ぶのはなかなか楽しいものだ。また、映像や画像が整理されて公開され、知的著作物として教育現場や市民活動の現場、企業活動の現場に還流することで、新たな知の創出につながることに期待したい。国立遺伝学研究所にはぜひ、宝の山といわれながらも、全国の大学や個人が管理に困っている様々な標本を収集・展示する遺伝学博物館(標本博物館)の設置を期待したい。




【財団法人神奈川科学技術アカデミー】
http://www.newkast.or.jp/
 「科学技術」の振興を担ってきた機関と、中小企業等の「産業振興」支援を行ってきた機関が統合。科学技術の成果を産業振興に活かし、地域経済の活性化に貢献する産学公連携の 「知的創造展開拠点」=(財)神奈川科学技術アカデミー(KAST)のサイト。イノベーションセンター、高度計測センター、教育情報センター等の組織があり、イノベーションセン ターでは、創造展開プロジェクトとして、地域のマクロニーズに取り組む産学公プロジェクト(地域産学公結集共同研究事業)、大学の研究成果を育成する知的財産活用促進コー ディネート事業、中小企業等の技術連携の促進する中小企業連携促進事業などを実施。教育情報センターでは、中小企業の技術者、研究者、経営者等を対象に、科学技術セミナー、 勉強会シリーズ、ヤカン講座など多彩なセミナー事業を展開している。平成20年度も、実務者のための『強くて良い特許網の構築』コース−「競合他社の参入を防ぎ、訴訟に耐え る」知財戦略−(3日間コース)、基礎から学ぶ分子細胞生物学コース−細胞の分子構造機能から病態まで−(5日間コース)、個の医療における研究開発とその産業化コース− オーダーメイド医療と創薬・医薬品開発のこれから−(3日間コース)、研究者・技術者のためのマーケティング基礎コース−市場がすべてを決める。研究者・技術者が市場を理解 するために−(5日間コース)・・・を順次開催する計画。

【すんぷ繁盛横町】
http://www.hanjyou.jp/
 静岡市産学交流センター、静岡市中小企業支援センター、静岡市立御幸町図書館(ビジネス支援図書館)が行っている起業・創業・産業支援などの事業やその成果をインターネット 上で公開している静岡市の中小企業を応援するサイト。この3機関は産業支援をキーワードに市の再開発ビルに入居し、それぞれの特性を生かしながら連携を図っている。サイト上 ではとくに相談情報とセミナー情報、事業に関わっている専門家やスタッフの情報発信が充実している。商売の知恵袋、資金の相談書、商人の悩み一覧・・・といった事業の一端を 紹介しているメニューでは、起業準備、製品開発、労務人事、知的所有権、IT、マーケッティングなど事業や経営にまつわるさまざまな相談事例、回答事例等が充実している。ま た、産学連携コーディネータからの情報発信やスタッフによる調査研究事業や開催セミナーの報告、プロジェクトマネージャーによる突撃インタビューなどコンテンツは横町らしく 雑多。しかし、中身はどれも中小企業者に興味深いもので構成されていてサイト名の「すんぷ繁盛横町」を納得させる内容がある。

【理化学研究所】
http://www.riken.go.jp/
 日本で唯一の自然科学の総合研究所として、物理学、工学、化学、生物学、医科学などにおよぶ広い分野で研究を進めている(独)理化学研究所のサイト。同研究所では大学や企業 との連携による共同研究、受託研究等を実施しているほか、知的財産権等の産業界への技術移転を積極的にすすめている。研究者一覧、発表論文一覧、データベース一覧などをみる と、研究内容や研究成果の概要がうかがわれるが、とにかく専門的で高度。理研Navi のビデオライブラりーでは、とくに「女性科学者のパイオニアたち」シリーズが印象深い。第1 作「物に親しむ 黒田チカ」から「私のえらんだ道 阿武喜美子」「紅花にかけた生涯 和田水」「吸収スペクトルで物質を探る 加藤セチ」「お茶博士の一生 辻村みちよ」「道 もなき道ふみ分けて 丹下ウメ」まで6人の女性研究者の足跡と「道もなき道ふみわけて―女性科学者の100年―女性科学者のパイオニアたち総集編」が映像公開されている。科学の フロンティアシリーズも「RIビームをつくるための加速器とその原理」「脳の活動をミリ単位で計測するfMRIを用いた脳科学研究」「表面を変えるとモノが変わるイオンビームを用 いた表層改質」「生きた細胞の現象を見る細胞内輸送システムの解明」など12本が公開され研究内容の映像コンテンツ化にも力を入れていいる。

【宇宙航空研究開発機構】
http://www.jaxa.jp/
 ロケット・輸送システム、国際宇宙ステーション・有人宇宙開発、人工衛星による宇宙利用、宇宙科学研究、基盤技術研究、航空技術研究、人工衛星・探査機等の研究開発プロジェ クトを推進している(独)宇宙航空研究開発機構(JAXA)のサイト。旬なコンテンツでは、宇宙飛行士土井隆雄さんらがスペースシャトル「エンデバー号」に搭乗し、国際宇宙ス テーション(ISS)へ向かい、「きぼう」(日本実験棟)の船内保管室を設置したり、さまざまな作業をした後、無事地球へ戻ってくるまでが楽しめるキャラクターによる密着レ ポートがある。お勧めは豊富で充実している静止画ニュース、動画ニュースなどの映像サービスのページ。ジャンル検索やカテゴリー検索、画像の種別検索などができる。教育利用 や商業利用など、公開画像の利用についての説明がきちんとされている点も参考になる。とにかく閲覧できる画像データは豊富で「宇宙から見た日本の姿」「宇宙から見た世界遺 産」「宇宙から見た地球環境」や 海洋、大気、台風、北極/南極、陸地/地形、火災/砂塵といったジャンルや観測した場所からの画像が見れる「ALOSデータ画像特選」の衛星画 像ギャラリーなど貴重な映像の宝庫にようなサイトだ。教育事業としては毎年自治体や大学、科学館などと一緒に10か所程度でJAXAタウンミーティングを実施していて、どこも盛 況。

【遺伝学電子博物館】
http://www.nig.ac.jp/museum/msg.html
 1996年、創立50周年を機に国立遺伝学研究所が開設したサイト。少しづつ改訂されており、2003年 3月に第5版がリリースされ、現在にいたっている。将来構想として、研究所の研 究成果や全国の散在する標本などを収集して展示するリアルな施設としての遺伝学博物館を計画。電子博物館開設の狙いは、現物の収蔵展示施設の先駆けとして、とかく一般の人に とって専門的で難しくなりがちな遺伝学に関する情報を、分かりやすく伝えるため、としている。テキストと静止画で解説するオーソドックス形式で「遺伝学の歴史」「進化と遺 伝」「分子遺伝学」「生物種の遺伝学」のコンテンツがつくられているが「マルチメディア資料館」のコンテンツは「DNAの複製」「転写とRNAポリメラーゼ」「翻訳とリボゾーム」 など、超ミクロの世界で起きている現象について、CGやフラッシュ・アニメーション、ストーリーボードを使って視覚化し、提供されている。このほかでは、中学生レベルの知識が 試される「クイズ遺伝学」はなかなか楽しい。「電脳紙芝居モアイで明かすいきもののなぞ」、児童むけの「ゲノムアニメ劇場」も公開されている。

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