社会の課題解決に挑戦する“社会起業家”の普及・養成
*コメント・URLは選考時のものです

選考者のつぶやき(財団法人AVCC 普及啓発部長 丸山 修)

 21世紀の先進国の人材づくりにとって「ソーシャル・アントレプレナー」(社会起業家)の養成は重要なキーワードとなっているように思う。欧米に続いて近年は我が国の大学でも学 生にコミュニティビジネスや社会起業家に関する講座が増えている。社会起業家に関する著作物を多数執筆している町田洋次氏(ソフト化経済センター理事長)によると、社会起業家 とは、「社会問題を起業家精神で解決する人」とされている。

 そもそも「社会」というのは「非営利」でビジネスには乗らず、対象外というイメージがあり、「起業家」というのは頭を働かせてビジネスを興す人、というイメージがある。しかし、福祉・環境・まちづくり・防災・安全などの大きなお金には成らない地域の社会的な課題に対し、従来型で行政がすべてをまかなうような時代は財政的にもすでに過去のことだ。個々人の自助、住民同士による共助、行政と住民の協働などで様々な社会的な課題に立ち向かわなければならない。その 社会的な課題やニーズをヒントに、知恵を働かせて新しい仕組みやネットワークを創出していくのが「社会起業家」の起業家たるところなのだろう。今回、そんな社会起業家に関わる情報発信や活動をしているサイトをブラウジングして5サイトをとりあげたが、社会起業家の養成といったとき、課題解決の知恵が働くようにする教育とは何か、が次のキーワードとなる。で、課題解決の知恵とは、結局、NPOや社会起業家の活動事例、経験に学ぶしかないように思う。




【ソーシャルイノベーション・オンライン・ジャーナル】
http://cac-journal.seesaa.net/
 2001年1月に発足した「社会起業家」の普及を推進するネットワーク型研究集団「CAC-社会起業家研究ネットワーク」が、2004年12月より発行しているオンライン・ジャーナルのサ イト。CACは社会起業家に対する理解促進や、起業家同士の情報共有および次世代の起業家との対話を目指して活動しており、社会起業家の研究は、公共政策の研究でもあり、市民のエンパワーメントを推進するリーダーシップの研究でもあると位置づけ、「社会起業家と地域再生」、「企業の社会性とNPOの事業性」、「新たなビジネスと個人の生き方」などをテーマに研究を進め、「丸の内社会起業講座」、「ビジネスイノベーションシリーズCEO 社会起業家セミナー」等にも取り組んでいる。オンライン・ジャーナル2007年春号の目次をみると、巻頭言「ソーシャル・イノベーションに欠かせない複眼的思考」、社会起業家と政策 社会起業家のための政策分析入門G『“殺されない”ためのリーダーシップ論』、文化芸術にみる社会起業家『地方都市と映画 第1回:映画館編』、社会起業家の実際 社会を変える力―国際協力の現場から見る「ソーシャル・イノベ ーション」―B『お金になる木の発見』、『日本の伝統的「社会起業家精神」:グンゼ』、社会起業家と支援、金融『エコ・レゾナンスでグリーン直接金融に乗り出そう」B』 といった興味深いタイトルが並んでいる。執筆陣にはCAC個人会員の大学・研究者、実践者、公務員らが参画しており、社会起業家をめぐるジャーナリズムとして注目される。

【ソフィアバンク・ラジオ・ステーション】
http://www.sophiabank.co.jp/index.php
 「未来からの風フォーラム」「社会起業家フォーラム(JSEF)」や「未来創造フォーラム」等の活動を推進しているシンクタンクである、ソフィアバンクのサイト。“世界初、シンクタンクが開局したインターネット・ラジオ局”というふれ込み。代表の田坂広志氏や、副代表の藤沢久美氏を始めとする 15名のソフィアバンク・パートナーが、毎月、時代の最先端のテーマを取り上げ、分かりやすく語りかける。「なぜ、21世紀のシンクタンクはラジオでメッセージを語るのか」の中で田坂代表は、インターネット革命がウェブ2.0革命へと進化するとき、シンクタンクも、ネットラジオを活用した、新たなスタイルのシンクタンクへと進化する・・・と述べている。報告書等の紙媒体を得意とするシンクタンクにあってソフィアバンクは、ラジオNIKKEIの番組「風の対話」「未来を拓くこの企業」などで200本を越える音声コンテンツを生み出してきた経験があり、活字では伝わらない暗黙知(経験などを通して伝わる知識や知恵)をインターネットラジオやポッドキャスティングの活用でカバーする手法はお手のものだろう。いつでも、どこでも、通勤時間にも利用できるサービスとして注目される。主なコンテンツは田坂広志氏が毎月、4つのテーマ(思想と哲学、社会と市場、企業と経営、仕事と人生)で語る「Tasaka Studio」。藤沢久美氏が毎月、4つのテーマ(ビジョン、ビジネス、キャリア、マネー)で語る「Fujisawa Studio」、15名のパートナーが毎月、様々なテーマで語る「Partners Studio」等。その他、「藤沢久美の社長Talk」や「松山真之助が語る、本の魅力、魅力の本」等々、多彩。

【NEC社会起業塾】
http://www.etic.or.jp/svip/
   次世代を担う若者への機会提供を通して、Entrepreneurial Leader(起業家型リーダー)の輩出と、社会にイノベーションを生み出すことを目指す特定非営利活動法人ETICでは、2003年よりNEC(オフィシャルパートナー)の協力をえて、大学生等の若者を対象にしたNEC社会起業塾を実施している。対象となる事業は「社会的課題の解決を目的に行われる事業」「社会のリソースを積極的に活用し、社会インパクトを拡大していくことを志向する事業」「IT技術やウェブサービスなどを活用している、または活用することを想定している事業」等で、これまでの参加事業の例としては、「子育て支援 (病児保育・親子教育)」「若者エンパワーメント (アート・スポーツなどの若者自己実現・中高での自律的進路教育)」「こどもへの創造・表現教育」「国際開発協力 (フェアトレード改革・児童買春の予防)」「自立的まちづくり支援 (広告による財源創出)」「食と農 (都市と農村の連携支援)」「介護 (情報格差解消)」などが上げられている。 支援プログラムは「バーチャルボードミーティング(仮想理事会・取締役会)の実施」「顧客や事業パートナーの紹介」「人材コーディネート支援」「活動資金およびPCの提供」「各種実践スキル系講座の開催」「メディアへのPR支援」・・・からなる。塾のOBにはNPO法人CANVAS、NPO法人かものはしプロジェクト、おこめナビ(NPO法人TINA)、NPO法人フローレンスなど社会起業家のオピニオンリーダー的な若者や事業型NPO等がある。また、ETICはこのほかにもアントレプレナー・インターンシップ・プログラム、チャレンジコミュニティ創成プロジェクト(チャレコミ、)インターンシップ活用セミナー、キギョノリ/女性起業家編 、チャレンジ・プロデューサー等、精力的な活動を展開している。

【大阪府社会起業家ホームページ】
http://www.fine-osaka.jp/social_entrepreneur/index.html
 大阪府は平成15・16年度に「社会起業家育成支援プロジェクト」として、提案公募により中間支援組織を選定し、「社会起業家」に対して技術的な支援等を行うモデル事業を実施。こ の2年間のモデル事業の成果を踏まえ、平成17年度を「社会起業家元年」と位置づけ、全国に先駆けて、本格的な社会起業家支援の基盤づくりに取り組んだ。その一環として大阪で活 躍するさまざまな社会起業家の情報を公開し、その取り組みを理解し、支援(寄付)する「支え手」と、地域活動の「担い手」である「社会起業家」とのつながりを深める目的で開設 したのが「大阪府社会起業家ホームページ」。大阪府ではこれを「元気コミュニティ創造」の仕組みとし、全国に情報発信している。支援の仕組みは(1)社会起業家が自らの活動 に関する情報を登録(2)登録された情報をもとに、地域住民が「自分が支えたい社会起業家」を自ら選んで寄付を実施(3)寄付を受けた社会起業家は、地域課題を解決するサービ ス等を展開するとともに、寄付者に対しても活動の成果を提供・・・からなる。寄付は「大阪府福祉基金」に設置された「社会起業家ファンド」で受付けており、中間支援組織からの 推薦を受けた「これから新たに事業を興そうとする『スタート段階』」の社会起業家に、3〜6カ月の短期間で実現可能性や実効性を検証(フィージビリティ調査)するための 助成(上限100万円)として行っている。モデル事業終了後の17年度には(特活)ニュースタート事務局関西、情報センターISIS大阪が、このファンドの支援を受けている。

【NPO法人フローレンス】
http://www.florence.or.jp/
 全国初、施設をもたず、子育てベテラン者と小児科医をネットワークし、地域で支える新しい病児保育「非施設型病児保育事業」を実現したことで注目されているNPO法人フローレンス のサイト。仕事を持つ母親等にとって、子どもの突然の病気と外せない仕事が重なった時、病気の子どもを預かってくれる社会的な仕組みがないことは大きなハンディキャップ。この 社会的な課題を解決する仕組みとして登場したのがフローレンスが創出した特定の施設を持たない「地域密着型」病児保育の仕組み。地域の小児科医や子育てベテランママの協力を 得、ネットワーク化することで施設設置や維持コストを不用とし、運営に関わる固定費を大幅に削減。また、地域の小児科医と提携することによって、医療的なバックアップ体制も整 えた。費用は通常のベビーシッター業務が従量制課金なのに対し、フローレンスは月会費制を採っており、利用会員が積み立てた月会費から、病児保育の必要経費をまかなうという 「共済型」のシステム。これにより格段に経済的な価格によるサービスが可能となった。1日の流れは、あらかじめ会員登録している利用会員から本部に病児保育依頼の電話がかかる と、利用会員の最寄りに住む担任隊員が利用会員の自宅にかけつけ、親から子どもを預かって、かかりつけの小児科医に向かい、受診する。受診後は、在宅レスキュー隊員に引渡し、 隊員の自宅で、一日保育する・・・というもの。この仕組みを創出し普及活動の先頭に立っている代表理事の駒崎弘樹さんは、まさにソーシャル・アントレプレナーと呼ぶにふさわし いリーダーだ。

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