地域の記憶を未来につなげるデジタルアーカイブ
*コメント・URLは選考時のものです

選考者のつぶやき(財団法人AVCC 普及啓発部長 丸山 修)

 公共ホームページ[goodsite]運動では、これまでも図書館の地域資料・貴重書のデジタル化、青空文庫などの電子図書館活動、京都に代表される産業創出事業、各地の歴史・文化財の保存公開など、多様なデジタルアーカイブ・サイトを紹介してきたが、今回久しぶりにデジタルアーカイブサイトを取上げてみた。国立国会図書館や国立公文書館などの国を代表する機関のデジタルアーカイブを別にすると、地方に流れていた国の肝入りのプロジェクトは一段落し、全体的に地道な活動局面に移行している感じがある。

 ここで取り上げたサイトのうち「中津川市デジタルアーカイブ」「十勝の記憶デジタルアーカイブ」は、その地域を後世に伝える行政記録として地道で志の高い取組みと受け取れる。「大分デジタルアーカイブ」は県の広報事業としての取組みなので、当たり前といえばそれまでだが、関連する情報発信活動と合わせてみると、ITC活用先進県・大分ならでは良さが見受けられた。「SNK筑後デジタルアーカイブ」はパソコン講座や電子図書館事業の地域貢献活動を行っているNPO法人シニアネット筑後(SNT)が運営する本格的なデジタルアーカイブサイトで、国の助成とNPOのフットワークが結びついた中身の濃いコンテンツが成果物として公開された例であろう。デジタルアーカイブの草分け的存在の「上田市デジタルアーカイブ」は、さすがにレベルの高いコンテンツが豊富に蓄積されていて、取組みの歴史と技術や研究の成果が感じられる。




【中津川市デジタルアーカイブ】
http://www.city.nakatsugawa.gifu.jp/archives/
 中津川市デジタルアーカイブは、岐阜県中津川市の情報政策課が運営しているサイト。中津川市の公式HP(http://www.city.nakatsugawa.gifu.jp/)はとてもシンプルに構成されていて、トップページから「図書」「市議会会議録」「条例」「デジタルアーカイブ」の各データベースに飛べる。いずれも、目的、使い方が明瞭で検索機能や選択機能で欲しい情報を探すことができる。デジタルアーカイブは平成12年度からデジタル化を進めてきたものをインターネット上に公開したもので、探そうとしている「キーワード」と「分野」「年代」から検索し、「関連する画像」を同時に表示することが出来るようになっている。画面上のクリックだけで様々な「中津川の姿」が見れる。とくに注目されるのは中津川市制施行以来の記録的画像を中心に市制施行以前のデータも含めて静止画及び動画が収録してあるところか。分類は「市制」「議会」「災害・防災」「福祉」「環境」「産業・経済」「開発・発展」「学校・教育」「文化」「観光」「医療」「自然・風物」「その他」の13カテゴリーで構成されている。動画コンテンツとしては昭和7年の四ッ目川災害の被害状況を、写真などの資料を使い説明している「四ツ目川惨害の記録」。昭和47年に市制施行20周年を記念して制作された「あすの中津川」。平成4年に市制施行40周年を記念して制作された「変貌の時を迎えて」・・・等が登録され、視聴できる。 因みに「映画」で検索してみたら、肖像権を配慮して出演者の写真の拡大表示はできないが、美空ひばり主演の映画のロケで使われた「ロケ記念 ひばり小屋」(松竹映画「山を守る兄弟」1953年製作)の撮影現場のスチール写真や撮影協力のクレジットタイトルなどのお宝映像に遭遇した。

【十勝の記憶デジタルアーカイブ】
http://www.tokachi.pref.hokkaido.jp/d-archive/index.html
 「十勝の記憶デジタルアーカイブ」は 市町村合併の波が押し寄せていた平成15年度、16年度事業として構築・公開された。トップページには「十勝支庁の前身である河西支庁の開設から107年が経過し、現在の1市19町村となってから47年になります。その間には産業のありかたも変わっていきましたし、過疎が進んだ地域もあります。また現代ではグローバル化が進み、地域の独自性が薄れていきつつありますし、将来的には市町村合併など地域の大規模な変化が想定されています。このような情況の中、地域の歴史を体系的に整理することはたいへん意義ある試みです。十勝支庁では、地域の再認識や地域づくり活動の基礎的な共有財産として、十勝支庁管内の市町村史をデータ化する取り組みを行いました。(後略)」と趣旨を述べている。カテゴリーの「くらしの風物」→「農民ばんば競走」を選択すると『「ばんば競走」の実施』「忠類村生花晩成馬産振興会」はじめとする地場産業の「馬」に関する情報に突き当たった。読んでいくと「1950年9月の秋祭りに13年ぶりに開催された「農民ばんば競走」は大型機械に押されて消えていく農耕馬を惜しんで再開された・・・・。忠類村生花晩成馬産振興会は1953年に道営「ばんえい競馬」への出場馬の生産などを目指して結成された」・・・など、最近、存続が危ぶまれ注目されている「ばんえい競馬」の歴史もたどれる。なお、十勝毎日新聞に掲載された全19市町村の話題やお知らせなどを、地域の皆様や十勝を離れて暮らす方々にふるさと情報としてお伝えします。十勝めーる(http://www.tokachimail.com/ :十勝新聞社運営)のサイトも良い。

【おおいたデジタルアーカイブ】
http://www.pref.oita.jp/10400/archive/index.html
   「おおいたデジタルアーカイブ」は、大分県庁より発行された広報誌を基に昭和43年から現在までの画像をデジタル化し、検索・閲覧を可能にしたもの。 運営は大分県広報企画振興部 広報広聴課 。キーワード検索の他「地域別」「年代別」「カテゴリー別」で検索できる。カテゴリーは17分類あり「海」91件、「山」189件、「川」140件、「祭り」107件、「温泉」 45件、「食」107件、「街並み」251件、「動物・植物」201件、「施設・建物」576件、「文化・史跡」487件、「道路・ダム・港」330件、「農業」207件、「林業」49件、「漁業」92 件、「商工業」310件、「医療・福祉」70件、「教育・子ども」53件(重複あり)・・・のデータ(静止画とテキスト)が登録されており、画像を保存したい場合は1MB程度の画像が別 ウィンドウで表示され保存ができる。また、「人気画像トップ5」、「お勧め画像ピックアップ」などのメニューから県民の関心の高い情報や貴重な画像に案内される。デジタル化の 基となった大分県広報誌「NEO OITA」のバックナンバー(http://www.pref.oita.jp/10400/neooita/index.html)を見ると1999年3月発行のVol.32〜2003年4月発行のVol.48までの特集 ページや当時の県知事平松守彦さんの対談ページ等が閲覧できる。こちらは大分県で活躍している様々な人間の生き方にスポットがあてられており、人間くさいアーカイブになってい る。なお、県庁ホームページの「マルチメディアライブラリー」コーナーには、県が昭和24年から45年までに制作した県政ニュース映画62本と、若干の短編記録映画をまとめた「大分 県の映像 戦後20年の記録」や県内18市町村の風景画像がポストカードに最適なサイズで無料でダウンロードできる「おおいたみちょくれアルバム(ポストカード用素材画像集)」 (http://www.pref.oita.jp/10500/postcard/)もある。

【SNK筑後デジタルアーカイブ】
http://snkcda.cool.ne.jp/
 「筑後デジタルアーカイブ」は、財団法人「地域総合整備財団」<ふるさと財団>の「平成14年度 e-ふるさとパイロットプロジェクト」に採択され、制作された。地域に存在する貴重 な歴史遺産や郷土資料、文化財などをデジタル化して後世に継承していく事を目的にしている。コンテンツは筑後川・矢部川流域歴史探訪、神社仏閣、文化遺産、祭、伝統芸能、筑後 三十三ヶ所観音霊場などを取材しデジタル化した「筑後・久留米の歴史探訪」シリーズと、世の中から忘れ去られた本や、図書館や家庭で眠っている貴重な本をデジタル化した「電子 図書館」シリーズの2本柱で構成されている。久留米城(有馬藩)を中心とした久留米の歴史をまとめた「久留米城物語」では、画面スクロールで城内を散策したり、久留米城の古鳥 瞰図や年表、地図などを閲覧でき、本丸の平面図も表示される力作。電子図書館シリーズでは、筑後藩主として入国した僅か9ヶ年の間に、柳川街道 有明海開発等の治績大であった田 中吉政について記された「田中吉政公とその時代」。昭和9年発行の神代から昭和初期までの高良大社の詳しい歴史や伝説・民話を記した名著「高良山物語」。昭和15年発行の大正末 期やめ奥地の紀行文で格調高い文章で当時の奥八女の風景を描写した「日向神紀行」。文政元年(1818)筑後川を舟で下った山陽が、南北朝に思いを馳せ記した排律「筑後川を下る 頼」など、貴重な地域資料13冊をデジタル公開している。コンテンツの企画・制作、サイトの運営等はシニアネット久留米デジタルアーカイブ研究会、米筑後電子書庫研究会、史談会 などが行なっている。                       

【上田市デジタルアーカイブポータルサイト】
http://museum.umic.jp/
 自治体のデジタルアーカイブ活動のトップを走る上田市のサイト。同市では平成7年度から地域の貴重な文化資産である写真や記録映像や文化財のデジタル化による保存、蓄積。さら には再生、再利用を進める活動を「地域映像デジタルアーカイブ事業」を進めてきている。ネットワーク上に美術館、博物館を構築している「上田デジタルミュージアムネットワー ク」では、「上田情報蔵」「上田市文化財マップ」「上田市立博物館」「山本鼎記念館」「信濃国分寺資料館」など、貴重な資料をFlashPix画像や3次元画像などで再現する。これら のWeb作品は、地域資料のデジタル公開技術のひとつの到達点か。また、本サイトで公開されている映像作品も本格的。約350年前から記録に残る、上田地域の伝統工芸「上田紬織物」 の技術を、「縞割り」/「精錬」/「染色」/「整経」/「機織り」の5つの工程に分けて克明に映像で記録した「上田紬 伝統の技に歴史の風合いが息づく」。上田地域に伝わる民話のう ち、「太郎山のつつじ」/「甲田池の河童」/「小泉小太郎」 の3編の語りを映像に記録した「上田地域の民話」。上田ゆかりの芸術家である山本鼎が、農閉期の副業として農民に広げ た運動を起源とする、 上田の伝統工芸「農民美術」の彫刻技術を、映像で記録した「農民美術 農の心ここに輝く」。江戸時代から先駆者たちが築き上げ、小県蚕業学校、上田蚕糸専 門学校などで研究され、 現在、上田蚕種協業組合で行われている蚕種(蚕の卵)の製造技術を映像で記録した「現代に生きる蚕種製造技術」・・・など貴重な映像ばかりだ。なお、各工 程ごとに制作方法や機材を解説した「デジタルアーカイブのつくり方」はデジタルアーカイブ先進市・上田ならではのコンテンツ。

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