授業の実践公開から社会参画まで! 拡大する大学テレビの動向
*コメント・URLは選考時のものです

選考者のつぶやき(財団法人AVCC 普及啓発部長 丸山 修)

 今回は大学の講座等をテレビ番組として放送あるいは配信しているサイトを訪ねたなかから5大学を紹介する。なかでも江戸川大「EDO―TV」と信州大学テレビの取り組みには少々驚いた。両大学ともチャネルが複数あり、いわゆるテレビ局のように番組編成がされている。また、制作スタッフはいずれも現役の学生というのだ。

  江戸川大学の場合は「メディアコミュニケーション学部」の「マス・コミュニケ-ション学科」に「放送制作コース」があるので、まさに授業自身が「EDO―TV」になっている。ウン十年前、類似の大学現場を経験している身には隔世の感がある。一方、信州大学の場合も学生が制作しているが、あくまでも学生の授業のためではなく、大学の地域社会への参画と学生のいわゆる「サービスラーニング」をテーマにした壮大な取り組みに受け取れる。これはこれで大変なことではある。熊本大学と東京大学はまさに知の本山として、市民にも大学が持つ高度な教育コンテンツを公開する試みであり、全国の大学がこれを少しずつでも進めてくれると、わが国のeラーニングコンテンツは格段に充実する。しかし、公開するコンテンツの質の悪かったり、低レベルだと、逆にその大学の評判を下げることにもなりかねないため、なかなか広がらないという声も聞く。

 なお、今回紹介できなかったが、広島大学エクステンションセンター (http://www.hiroshima-u.ac.jp/extension/ )でも、地元のRCCテレビ・ラジオとタイアップして放送セミナーを実施している。録画ビデオテープ、録音CDを県内の学校、県内の公共施設・団体等に提供している。


【江戸川大「EDO―TV」】
http://cast.edogawa-u.ac.jp/
 「EDO−TV」は、江戸川大学のオフィシャルホームページとして設置され、2006年4月よりサイト運営がスタート。番組制 作やテレビ局運営のかなりの部分は、特別ゼミ「放送制 作研究」の学生が担当している。チャンネル設定は以下の12チャンネルで、それぞれ、リアルタイム放送とオンディマンド放 送を交えて行っている。 1CH:情報バラエティー番組「さ んQ」、2CH:インタビュー番組「研究室探訪」、3CH:実習授業制作番組、4CH:「放送コンクール」チャンネル、5CH:「授 業&講演」公開チャンネル、6CH:高校生の みなさんへ(大学紹介)、7CH:保護者の皆さんへ(準備中)、8CH:ドラマ番組(準備中)、9CH:ラジオ番組(準備中)、 10CH〜12CH:準備中。また、今回の試みは、 マス・コミュニケーション学科「放送制作コース」の実習授業にとっても大きな意味があるという。 従来の制作実習は、作品 が完成した時点で完了だったが、それだけでは視聴者は制 作にかかわった「身内」だけに偏り、自己満足に陥りがちだ。本来「放送」するためには、視聴者に受け入れられる企画を 立案し、わかりやすく表現し、放送することで誰かを傷 つけないための配慮を行い、さらには著作権処理を適切に行うなどが欠かせない。したがって、「放送番組」制作実習は、 広く公開(放送)することではじめて完結することになるわ けだ。このためめEDO―TVのサイトでは、個々の番組ごとに評価(投票数)、ヒット数、コメントが行える仕組みになってお り、視聴者の評価をフィードバックする試みとして注 目される。

【信州大学テレビ】
http://www.shinshu-u.ac.jp/tv/index.html
 平成18年10月1日に開局した大学から地域に発信するテレビ放送。視聴するにはテレビ松本(地元CATV局)への加入と 専用のデジタルチューナーが必要。主な番組は「教養・生涯学 習」(信州の歴史文化・自然・環境・健康・生活など身近なテーマを中心に、様々な学問領域に及ぶ番組を加えて制作・放送)、「ドキュメンタリー」(信州大学、留学生、信州の企 業など、知っているようで知らない信州大学周りの題材を学生の目から捉えたドキュメンタリー)、「情報番組」(他の地方から信州にやってきた信大生に、有意義で快適な信州ライ フを送ってもらう一方、地元信州に住む人たちにも、信州の魅力を再発見してもらう、そんな番組)、「バラエティ・ドラマ」(信大生の日常を描くドラマをはじめ、トーク、イベン トレポート、一工夫凝らした旅番組など、学生のユニークな視点で捉えた番組)。これら信大TVの番組の多くは、”キャブ=Campus Bridge”(キャンパス無料情報誌「キャブ」を発行する経済学部のグループ)、”ディー・スタイル=D-style”(大学院工学系研究科不破教授ゼミを中心としたグループ)、”スタジオ・ライズ=St RiZE”(人文学部中嶋教授ゼミを 中心としたグループ )の三つの学生サークルによって制作されている。「信州大学テレビは、信州大学の理念・目標に基づき、番組制作を通じて個性豊かで高度の専門知識・能力を備えた人材を育成するとともに、生涯教育の振興、地域文化及び公共の福祉の向上、産業経済の繁栄に貢献し、平和で豊かな地域社会の実現に寄与することを目的として、地域社会の信頼にこたえる放送を行う。」と、大学は高い理念と目標を掲げており、大学と学生たちの活動が注目される。

【熊本大学インターネット講座(テレビ講座・ラジオ講座)】
http://www.lifelong.kumamoto-u.ac.jp/
  熊本大学生涯学習教育研究センターが運営するサイト。同センターではRKK熊本放送のテレビ・ラジオ放送とタイアップし、県民・市民を対象に毎週テレビ講座やラジオ講座を開催しており、過去の番組についても遡って体験が可能。テレビ講座のうち平成14年度実施の「暮らしの中の心理と癒し」をテーマにした5講座、15年度実施の「水と生きる」をテーマにした5講座)は本サイトで公開中。ラジオ講座、シリーズ1「有明・八代海の環境特性と環境悪化の要因、そして再生の方向性」(全10回)、シリーズ2「再生にむけての取り組み・対策・提言」(全10回)についても、RKK熊本放送のサイトで過去放送分のページが用意されている(http://www.rkk.co.jp/radio/index.html)。なお、18年度実施のテレビ講座については学習用についてのみDVDで貸出サービスがある〈問い合わせは社会連携課(096-342-3121)。平成14年度から17年度にかけて実施した50回にわたる「知のフロンティア講座」のうち、現時点で次の11講座がアーカイブされ、公開されている。第10回「学校の見方を考える」、第12回「司法制度の行方 -法と社会-」、第13回「脳の機能を探る」、第14回「有害物質除去技術の実現にむけて」、第16回「「がん」の予防と治療の最前線」、第17回「橋の世界への誘い−力と形−」、第21回「医薬を支える植物−ファイトセラピーへの誘い−」、第24回「世界を変える燃料電池−新しいエネルギーを求めて−」、第25回「地方分権と川辺川ダム問題」、第27回「地球の裏側から夜空を教室へ〜インターネット天文台〜 」、第29回「情報技術(IT)の教育への活用」・・・と各コンテンツは充実している。  

【TODAI TV】
http://www.todai.tv/
 TODAI TVは、東京大学で実施されている講義や講演などを視聴できるサイト。自学自習(Self-learning)を行う意欲ある学生を応援することを目的に運営されており、未履修科目の学習や、既習分野の「わかりなおし」の際に、自由に役立ててもらうこととしているが、インターネットで公開されているので、一般の人も高度な内容の授業を体験できる。 そもそもTODAI TVは、東大の小宮山宏総長・古田元夫理事・副学長のもとに設置された「教育の情報化プロジェクトチーム」が全学的に推進するTREE(Todai Redesigning Educational Environment)プロジェクトのサブプロジェクトとして生まれた。TREEが行った調査で、もっとも強い教育ニーズが「多様な学生/大学院生に基礎科目を自学自習する環境をもうけて欲しい」だったことがTODAI TV開設につながった。現在公開されているコンテンツは東京大学公開講座「人口」第10回「人口減少社会を生きる」(全6回 赤川 学助教授)、第9回「人口停滞の世紀とその後」(全7回 近藤和彦教授)、第5回「日本人はどこに住んできたか−戦後日本の人口移動とライフコース」(全5回 荒井良雄教授)、第3回「子どもの数と不就学−戦前の就学率」(全6回 土方苑子教授)、 第2回「遺伝子レベルからみた生物集団と適応」(全6回 岸野洋久教授)、第1回「人口学の考え方と人口問題」(全6回 稲葉 寿助教授)、情報工学概論 A(全10回 相田 仁教授)・・・以上、いずれも1講座80分。それに超伝導エレクトロニクス、生体磁気、ニューラル ネットワークス研究の第一人者である岡部 洋一 東京大学名誉教授の最終講義(全9回)が体験でき、機能・内容とも充実している。                                                     

【大阪芸術大学テレビ】
http://www.osaka-geidai.ac.jp/geidai/ouatv/index.html
 大阪芸術大学が運営するサイト。新聞1面風のホームページ・トップ画面が斬新で、懐かしい印象を受ける。縦組みのニュース記事も読みやすい。公開されているコンテンツの主体は卒業・終了作品展や展示会等のイベント。現在の番組ラインナップは、大阪芸術大学グループ卒業・修了作品展リポート@(短期大学部編・約30分)、大阪芸術大学グループ卒業・修了作品展リポートA(大阪美術専門学校編・30分)、大阪芸術大学グループ卒業・修了作品展(大学院芸術研究科編・15分)、大阪芸術大学グループ卒業・修了作品展(大阪芸術大学編・約15分)、大阪芸術大学グループ卒業・修了作品展(学外展編・15分)、大阪芸術大学博物館所蔵品展「新収蔵品展」(川端健生・中川一夫ライカコレクション/約3分)、 OSAKA光のルネサンス2006−リポート(約20分)、OSAKA光のルネサンス2006−大阪芸術大学プロジェクト・メイキング(約10分)、学生作品展「ミチシルベ展」(約5分)、キャラクター造形学科作品展「Q展」(約5分)・・・の10番組。学生がリポーター役を務めたり、心地よいBGMを流したり、番組づくりを楽しんでいるが、作者に作品の制作意図を語らせたり、指導教授に講評を求めたり、BGVとBGMだけに頼らない番組づくりも試みて欲しい気がする。

-UP-