地域の個性を生かすユニークな「大学」活動
*コメント・URLは選考時のものです

選考者のつぶやき(財団法人AVCC 普及啓発部長 丸山 修)

 今回は「大学」というキーワードで、ユニークな活動をしている団体のサイトを紹介する。市民大学や県民大学というと、自治体の生涯学習推進機関や大学等の高等教育機関が市民や社会人を対象に実施している生涯学習プログラムを連想するが、今回紹介する5つの「大学」の共通点は自治体や大学等が関係している多くの生涯学習推進体制とは異なるプロジェクト体制で運営されているところか。

 「シブヤ大学」と「三鷹ネットワーク大学」はともに都市型の新しい生涯学習推進モデルと思われる。行政自身は後方に下がり、NPOがコーディネータとなって、プロジェクトを走らせている。「琵琶湖市民大学」と「大洗海の大学」は、ともにかなり地域の専門分野に特化した体験型の「大学」で、それぞれの地域の自然や環境に根付いた豊かな活動が光る。「森のゆめ市民大学」も自然や地域社会、ふるさと、こころ等をテーマに地方からスローライフを標榜しているように思われる。教育委員会や自治体自身が背負ってきた生涯学習の世界のある領域は、21世紀に入り「ニューパブリックマネジメント」の流れの中で転換点に差し掛かり、官から民へ、あるいは官と民の協働へ、舵はすでに切られていることを改めて痛感する。そして従来型の公的な生涯学習機関の使命と機能、領域についても考えさせられるものがある。




【シブヤ大学】
http://shibuya-univ.net/
 渋谷というコミュニティエリアに特化した生涯学習プロジェクトを推進するNPO法人シブヤ大学(代表:左京泰明)が運営するサイト。シブヤ大学は「遊ぶのがいちばん楽しい街は、学ぶのがいちばん楽しい街になれる」という気付きをきっかけに設立されたNPO法人で、専任スタッフを中心に様々な分野のエキスパートが運営に協力している。当該サイトは2006年7月 24日に開設された。第3土曜日に実施している一般市民対象の無料講座や集中講座のほか小中学校への授業協力も行なっている。特長は活動のために必要となる資源(会場、講師、テーマ等)はすべて渋谷の街中から発掘し活用する、という地域密着型の運営を行なっているところか。渋谷は新しいお店やカルチャー、ビジネスの先進地として多様な才能の宝庫でもある。また、国連大学、表参道ヒルズ、明治神宮などの渋谷中の施設と連携すればカリキュラム単位で変化に富んだ教室設定ができる。年数回HP上で市民講師も募集しており、渋谷区に住んでいる人、勤務している人、何らかのかかわりのある人、シブヤ大学に賛同する人なら書類審査や面接を経て講師になれる。また、2007年1月20日伊藤忠商事はシブヤ大学と提携して「MOTTAINAI学科」を設立。環境3R(リデュース:ごみ減量、リユース:再使用、リサイクル:再利用)+リスペクトを一言で表す「MOTTAINAI」をコンセプトに1年間(月1回)体験型授業やイベントを行ない、渋谷から「MOTTAINAI」活動を発信していく、と発表した。行政直営の生涯学習ではできない「新しい公共」による生涯学習プロジェクトに注目したい。

【三鷹ネットワーク大学】
http://www.mitaka-univ.org/
 教育・研究機関の地域への開放と、地域社会における知的ニーズを融合し、民学産公の協働による新しい形の「地域の大学」をめざす三鷹ネットワーク大学(開校:2005年10月/運 営:NPO法人三鷹ネットワーク大学推進機構)のサイト。同大学は三鷹市が市政運営の基本として掲げる「協働のまちづくり」を具現化する取り組みとして、高等教育機関が持つ知 的資源、最新の情報等を活用し、市民、研究者、民間企業、行政関係者が交流し、学習の機会や共同研究の場などを通じて社会に広がる課題を解決し、地域のまちづくりや新事業創 出など産業の活性化を図ろうとする取組み。教育・学習機能(「コミュニティ・カレッジ」事業、サテライトキャンパス事業、社会人大学院事業、企業・自治体研修事業)、研究・ 開発機能(「民学産公」協働研究事業、ビジネス・インキュベート事業、「まちづくり総合研究所」事業)、窓口・ネットワーク機能(キャリアデザイン支援事業、「協働サロン」 事業、eラーニング支援事業)の3つの機能を設定。高度な学習機会の提供だけではなく、学習成果を生かした起業支援も視野に入れた事業スキームを構築しているところが特長 か。現在、アジア・アフリカ文化財団・亜細亜大学・杏林大学・国際基督教大学・国立天文台・電気通信大学・東京工科大学・東京農工大学 ・日商簿記三鷹福祉専門学校・日本女 子体育大学・法政大学・明治大学・立教大学・ルーテル学院大学・・の計14の高等教育機関が参画している。

【琵琶湖市民大学】
http://www.hyogokankyo-lab.com/biwako/index.html
  琵琶湖市民大学は、琵琶湖・淀川流域の環境問題について取り組む市民のネットワークとして、2003年 2月から活動を開始。琵琶湖・淀川流域の市民を対象とした環境講座の開講(合宿・琵琶湖市民大学、学 習会の開催)、琵琶湖の水質や生物に関する独自の調査研究活動と改善策の提言・・の2つの事業に取 り組んでいる。 2005年には大津市柳が崎浄水場付近で7月18・19日、8月7・8日、10月30日と3回にわ たり「水上バイクが琵琶湖に与える影響調査」を行なっている。これは琵琶湖で走行する水上バイクの多くが 未燃焼の排気ガスを多量に排出する2サイクルエンジンで、排気ガスを水中に排出する構造であるために、 その水質への影響が心配されたためである。 調査項目のVOC:揮発性有機炭化水素(ベンゼン、トルエン、キシレン)、TOC(全有機炭素)、T-N(全チッ ソ)、騒音、走行台数について調査した結果、水上バイクの走行に伴い、VOC濃度の上昇が見られたこと、 離発着地点で特に高濃度で検出される傾向があることなどの結果が報告されている。また、2004年から毎年8 月に市民・学生を対象にした「合宿・琵琶湖市民大学」を実施している。合宿は3泊4日の日程で、ワークショップ、 琵琶湖調査実習、講義、地元の漁師さんとの交流会・・と中味が濃い。2006年は「近畿のみずがめ 琵琶湖をさぐる」をテーマに NPO法人市民環境研究所、NPO法人使い捨て時代を考える会、環境監視研究所、 神戸水環境研究所、淀川水系の水質を調べる会、(有)ひょうご環境科学研究所、NPO法人木野環境ら多く の市民団体、市民の参加により開催された。

【大洗海の大学】
http://www.anco-oarai.org/
 2004年4月、茨城県の大洗町に誕生したNPO法人大洗海の大学(ANCO)のサイト。「ANCO」(町の名物にひっかけてアンコウと読む)とは「Adventure Navigation・Crew of  Oarai」の略で「心の冒険(アドベンチャー)に誘う(ナビゲーション)大洗の仲間(クルー)」という意味とか。大学には浜学部(船頭料理学科、リフレッシュ学科、まち探検学科、 セーブ・ザ・シー学科)、風学部(ヨット学科、星空学科、ひもの学科、ほしいも学科)、波学部(波乗り学科、漁師学科、舟方学科、魚遊学科、マリンスポーツ学科)、渚学部 (磯遊び学科、アート学科、ビーチスポーツ学科)、川学部(魚遊学科、漁師学科、カヌー学科)、緑学部(田んぼ学科、畑学科、ハマヒルガオ学科、炭焼き学科)、釣学部(川つ り学科、海つり学科、ハゼ釣り学科)・・・の遊び心旺盛な7学部25学科が設けられ、サーフィン教室やカヌー教室、ボディボード教室、ジュニアライフセービング教室など代表的 なマリンスポーツから、ハゼ釣り教室、大洗に水揚げされた魚をさばき天日干しにして作る「ひもの作り教室」、海藻のカジメなどを煮出して染める「海賊染め教室」、地元特産の ハマグリの貝殻に絵を描く「貝あわせ教室」などユニークな体験プログラムが目白押し。運営にあたる教授陣もユニークで元プロサーファー、ヨットのオーナー、サーフショップや 料理店の店主、漁師、陶芸家など多様な地元の人材が参画している。総長の中川祐二さんは「お頭」の愛称で呼ばれるアウトドアの達人。地域の資源を生かしたNPO活動に注目。                                                     

【森のゆめ市民大学】
http://www.nice-tv.jp/~shimin/
 森のゆめ市民大学は2001年、閉校になった大学跡地を有効利用できないものかと数名の市民が立ち上がり、それに賛同する市民の手によって作られた市民大学。活動は富山県魚津市 の新川文化センターや新川学びの森交流館(元洗足学園魚津短期大学)を主な拠点としている。ユニークなのはジャーナリストの筑紫哲也氏を学長に、政治学者の福岡政行氏と富山 県の有力企業インテックグループCEOの中尾哲雄氏、オークビレッジ代表で工芸家・作家・環境プロデューサーなどの顔も持つ稲本正氏の3人を副学長に迎えていること。メイン事 業は年6回の講座「森のゆめ市民大学」。受講料は6回通しで個人会員が1人1万円。法人会員は3万円で受講は2名。その他、講演会時に地域で育まれた文化活動を紹介するコミュ ニティタイムの実施、5回〜8回程度、趣味や教養講座をラインナップした「未来塾」(有料)などを実施している。2006年度には第1回 森のゆめ市民大学賞を設け、「まなびや」を テーマに原稿を募集。エッセイ、作文、論文、詩など形式は問わないとか。ちなみに2006年度の第5期の講師は、第1回 大宅映子(評論家)、第2回 白石康次郎(海洋冒険家)、第 3回 田部井淳子(登山家)、第4回 青島広志(作曲家)、第5回 陰山英男(立命館小学校副校長兼立命館大学教授・教育再生会議委員)。なお、第6回の最終講座は2007年2月3日 (日)「再生」をテーマに筑紫学長と副学長4名の講演および鼎談で実施。

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