2004年1月「多様化するアーカイブスサイトの魅力」
*コメント・URLは2004年1月当時のものです

選考者のつぶやき(財団法人AVCC 普及啓発部長 丸山 修)

   1月の選定作業も10日ほどずれ込んでしまった。東京大学大学院学際情報学府 e-learning siteである「iii online 」と出会 い、類似するサイトはないか、いろいろ探しているうちに迷路に入り込んだ。大学の授業の動画をオンデマンドで視聴できるサイ トというのは、予想に反してそれほど進んでいないようだ。講義配信サイトが増えるのは時間の問題だろうが、国立大学も独立行 政法人化することもあり、いいコンテンツは受益者負担、という方向に向かうのだろう。
   「北海道立市民活動促進センター」は前から気になっていたサイトで、生涯学習センターの調査研究をしてきた立場から見ると、 似たようなことを教育委員会系でも手がけ、知事部局系でも新たに取り組むというのは、どうかという気もするので、いずれ統合する 方向に向かうのでは。今のところ、知事部局系は直接、活動団体を支援し、教育委員会系は、市町村の支援という住み分けか。
 「あいち地域資源デジタルアーカイブ」「Wonder沖縄」「幕末・明治期日本古写真 超高精細画像データベース」のデジタルアーカイブは 3者3様の個性とすばらしさがあり、感動がある。


【iii online (東京大学大学院学際情報学府 e-learning site)】
http://iiionline.iii.u-tokyo.ac.jp/
 iii onlineは、東京大学大学院学際情報学府の授業をインターネット上で受講するためのサイト。東京大学大学院学際情報学府の 学生は、インターネットを利用して授業に参加し、単位を取得することができる。また、学生以外でも公開されている授業を閲覧 することができる。 現在実施中(2003年10月〜2004年3月)の授業で公開されている講義は、「シミュレーション・システム」 (講師:荒川忠一 11回)と「進化生態情報学」(講師:佐倉 統 15回)の2シリーズ。過去の講義では、2003年の前期・後 期の授業「自然言語処理論」(講師:辻井潤一 11回)、「 コミュニケーション・システム」(講師:原島博 14回)、メディア 表現論(講師:水越 伸 16回)「情報政策論」(講師:濱田純一 15回)、「情報記号論」(講師:石田英敬 12講義)、「情 報リテラシー論」(講師:山内祐平 15講義)といった「メディア」や「情報」分野の第1人者の授業が6シリーズがストックさ れている。基本的に講義ビデオと配布資料(非公開もある)が提供されており、東大生になったつもりで授業の雰囲気を味わえ る。

【北海道立市民活動促進センター】
http://www.fureaizaidan.or.jp/npo.html
  同センターは、北海道のさまざまな市民活動を行う個人、団体が活発に交流・連携し、情報交換を行い、また、活動に係わる専門 的な相談などの拠点となるようにと道庁別館西塔1Fに設置された。運営は(財)北海道地域活動振興協会が行っている。電話やE- メール、面談による相談・受付コーナー、パソコンによる情報提供コーナー、図書の貸出や活動団体の資料等を集めて展示してい る資料展示コーナー、打合せなどに自由に使える交流促進コーナー、印刷機、コピー機、製本機などが使える作業コーナーなどが ある。このサイトにある市民活動団体情報提供システムは、地域別検索、活動分野別検索により団体の名称や所在地、活動分 野、メッセージなどが閲覧できるオーソドックスなものだが、収支状況や会員状況などもきちんと公開されている点がまなびネットの団体情 報と一味違うところか。楽しいコンテンツとしては、「北の人々の輪」というコーナーがお勧め。現在(平成16年1月末)13人が紹 介されており、約1分40秒のビデオメッセ−ジがなかなか楽しめる。保健・医療・福祉、社会教育、環境保全、人権・平和、国際協 力、子どもの健全育成などの分野から紹介されているが、車椅子ダンスのダンサー三上晶代さん(車椅子ダンスの会ハーモニー所 属)、セラピー犬のノン太(米田弘子さんが飼い主。所属は北海道ボランティアドッグの会。8歳)をブラウジングしてみる と・・・。三上さんは車椅子ダンスとダンスを通じての人との交流の楽しさを。ノン太と米田さんは、特別養護老人ホームなどの高 齢者が犬とのふれあいによって自然に心を開き、健康を回復する喜びを語っていて、市民活動家の暖かさや心意気が伝わって くる。

【あいち地域資源デジタルアーカイブ】
http://www.aichi-lrda.jp/
  愛知県地域振興課が運営しているサイト。地域の資源を如何に発見・開発し、地域づくりに活用するのか、市民や行政はどう関 わっているか、などの観点から県内の地域資源を活用したまちづくり情報を掲載している。コンテンツ制作はまちづくりの専門家 集団、特定非営利活動法人ボランタリーネイバーズに委託している。地図から場所を指定して地域資源を調べる「愛知県地図で 調べる」、 歴史、文化などの「資源のジャンルで調べる」、保全・再生、ビジネスなど「活用の目的で調べる」、市民、行政など 「活用の担い手で調べる」、「資源に関わる人物で調べる」の5つの検索方法が用意されており、利用方法はシンプル。各コンテ ンツは概要を紹介したフロントページから「紹介ビデオ」「写真」「提供資料」「詳細データ」(詳細資料を読む)「関連デー タ」(団体、人物情報を読む)にナビゲートしている。デザインはフォーム化されてて、とても見やすい。また、コンテンツもシ ンプルだが読み応えがある。「詳細データ」では「資源の概要」「活用の概要」「課題と展望」「活動をしている方々か らのアピール」「備考」という項目があり、それぞれの「地域資源」のもつさまざまな側面が理解できる構成となっている。現 在、公開されている50件のコンテンツは平成14年度事業として作成したもので、15年度は引き続きネイバーズが60事例を制作中。 新規コンテンツの情報提供を常時サイト上で受け付けている。

【沖縄デジタルアーカイブ「Wonder沖縄」】
http://www.wonder-okinawa.jp/
 沖縄県が「沖縄デジタルアーカイブ整備事業」において制作したコンテンツの公開サイト。総合プロデューサーの高城剛氏は「ワンダー沖 縄とは、日本最大の地域デジタルアーカイブである。総ウエッブページ数1万ページ以上、高精細デジタル映像10時間以上。もは や、世界規模でみても最大級の映像デジタルアーカイブである」と述べている。沖縄の歴史、自然、美術・工芸、芸能、民俗、その 他(海底文化、街並み、食文化、泡盛)のジャンルメニューから「自然」を選ぶと「沖縄本島」「宮古諸島」「八重山諸島」「本島 周辺離島」に分かれる。「本島」を選ぶと「やんばるの自然」「サンゴ礁のダイナミズム」「入門」(バードウォッチング、ト レッキング、シュノーケリング、シーカヤック)「沖縄自然百科」で構成されたコンテンツメニューへ。どれも専門的で充実した コンテンツが洗練されたデザインで楽しめる。「歴史」の「首里城」のなかには動画コンテンツも7タイトル。琉球王国にも動画 タイトルが6タイトルある。検索システム(全文検索・画像検索)や 3D画像を楽しめる「時空ナビ&サークル 」、アクセスログ の解析から、デジタルアーカイブの最新の利用状況をダイナミックに可視化する「琉球ALIVE」などの最新技術も盛り込み、最先 端・最高水準のデジタルアーカイブサイトになっている。沖縄の文化資源の豊かさには感銘する。

【幕末・明治期日本古写真 超高精細画像データベース(長崎大学)】
http://zoomphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/
 長崎大学付属図書館が所蔵する「幕末・明治期日本古写真コレクション」は、幕末から明治期にかけて、日本国内で撮影された写 真を収集したもので、総点数は5400を越える国内有数のコレクションである。どれも当時の生活や風俗を知る上で大変貴重な画像 であり、その多くは、"職業絵師"の手により彩色されている。また、極めて鮮明な写真も多く保存されており、写真の細部には貴 重な情報が埋め込まれている。長崎大学では文部省科学研究費補助金(平成9年度及び10年度)の交付を受けてこれを電子化しイン ターネットで公開(http://oldphoto.lb.nagasaki-u.ac.jp/univj/)してきたが、新たにコンピュータ画面上で、5倍から10倍に拡 大しても鮮明に見ることができるように、 超高精細画像による「幕末・明治期古写真 超高精細画像データベース」を構築し公開し ている。この画像データベースには、 長崎の写真201点、長崎を除く全国の写真300点が登録され、「地図上からの検索」や「各種 条件による検索」、「全文検索」等で検索できる。それぞれに詳細な日本語と英語の解説が付いている。近代化しつつあった幕末 から明治期の日本の姿が鮮明な超高精細画像で楽しめる。デジタル技術による貴重資料の保存と公開のベストプラクティス。

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