2002年12月「公民館はどこへ行く」  
*コメント・URLは2002年12月当時のものです

選考者のつぶやき(財団法人AVCC 普及啓発部長 丸山 修)

 今月は「公民館はどこへ行く」というテーマで選定してみました。単にホームページで 提供されているコンテンツを評価するというより「今後の公民館のあり方について何らかの示唆のあるサイト」という趣旨で捜し、キャッチアップしました。

 公民館は戦後、民主主義教育の一環として設置されるようになったものと思っていましたが、何と昭和16年に水沢町(現・岩手県水沢市)に「後藤伯記念公民館」が造られています。これが建物の名称としては公民館第1号。これにはいわれがあり、正力松太郎氏が窮地にあった読売新聞社の経営立て直しに際し、後藤新平氏の資金援助を受けました。同氏の死後、その事実を知った正力氏は、生前の恩に報いるため「後藤を生んだ郷土の師弟養成のため、肉体と魂の錬成道場を兼ねた公民館を贈ろう」と出身地の水沢町に建設費15万円、運営費5万円、合計の20万円を寄贈し、建設されたとか(岩手新報2002年4月11日付 「いわて21世紀への遺産」より)。公民館は郷土や国を背負う有能な人材を養成するための施設をコンセプトとしていました。戦後から最近までの公民館は日本に民主主義社会を築き、普及していくための施設であり、民主主義を体現する人々を公民と位置付けたのでしょうか。 

 最近、千葉県市川市では公民館を「ミューティアム」と呼んでいます。「ミューティアム」とは、出会いや会合などの意味で用いる「ミーティング」と気軽に利用できる楽しい場を表す「ミュージアム」との造語とか。因みに事業を企画・運営する社会教育指導員を「ミューティアム・スタッフ」と呼び、公募しています。「人と出会えて楽しい場」というコンセプトでこれからの公民館を言い表わすことができるかは・・?
 時代を切り拓く新しい、いいネーミングはないものでしょうか。

【府中南公民館(広島県安芸郡府中町)】
http://www.akinet.ne.jp/kyonanko/
 府中南公民館は1962 年 (昭和37年)9月1日 開館。2002年は満40年ということで「特別企画 南公民館40年の軌跡」が掲載されている。内容は年表やデータでまとめた「40年の歩み」(公民館の歴史・.図書貸出状況 ・主催講座の推移・クラブ活動の推移)、40年前の昭和37年の社会の出来事や公民館活動を文書と写真で綴った「Back to 1962」、南公民館で昭和40年5月に結婚式を挙たご夫妻の取材レポートによる「公民館で結婚式?」 (40年前よもやま話)で構成されている。10年ごとに主な講座をまとめた「主催講座の推移」をみると、1981年度まではいわゆる婦人を対象にした趣味、教養、生活関係の講座がプログラムの大勢を占めているのに対し、1991年度になると対象者が子どもや親子参加の講座が現れ公民館事業の幅が広がっている。2001年になると「子ども放送局」「IT講習」「オープンカレッジ」といったIT技術を活用した遠隔系講座も登場。それにしても開館当時の公民館で結婚式をやっていたとは。そういえば1971年の講座には「若妻学級」というのも存在した。公民館はなくてはならない地域のパブリック・スペースだったことが偲ばれる。

【亀田町公民館(新潟県中蒲原郡亀田町)】
http://www2.ocn.ne.jp/~kame/
 亀田町公民館がホームページを開設したのは平成10年4月。平成10年から県生涯学習推進センターが取り組んだ社会教育施設情報化・活性化プロジェクトへの参加がきっかけ。参加機関はホームページを立ち上げたり、データベースやテレビ会議等の共同事業を行うこととなった。限られた人材で実験事業に参画する負荷は大きいが、これをチャンスと捕らえチャレンジした経過や経験を公民館役職員研修会や視聴覚メディア研修会で発表。「公民館ホームページの研修記録」では、その内容や補足資料、幻の発表論文などが公開されており社会教育関係者の参考となる。「第52回新潟県公民館大会〜新しい情報通信技術を活用した公民館活動の推進〜」(平成13年度)の講演記録、雑誌や研究紀要への掲載原稿なども公開されている。また、サークル紹介のページではそれぞれの活動の様子が紹介されており、楽しい様子が伝わってくる。他にも、公民館図書室のホームページも運営しており、蔵書検索や新着図書リストの情報を提供している。

【崎浦公民館(石川県金沢市)】
http://www.spacelan.ne.jp/~sakiur-k/
 金沢市の地区公民館では「金沢方式」といわれる地域主導の公民館運営が行われており、ホームページのコンテンツにもその特色が反映されている。金沢市では現在18館がホームページを公開しているが、デザイン面、内容面でとくに充実している崎浦公民館を紹介する。「町会の紹介」では、各地域の特徴が調査の上まとめられている。「見て歩きマップ」にも崎浦地域の歴史・文財等が散策ルート的に整理されている。また、崎浦公民館では平成9年度から「塩硝の道」検証委員会を発足。一向一揆時代が起源といわれ、戦国時代から江戸時代まで加賀藩の鉄砲火薬の生産拠点であった、崎浦地域の火薬製造所や塩硝蔵。そこから50キロメートルの距離にある五箇山の「塩硝の館」や塩硝製造の遺物と、これらを結ぶ「塩硝の道」を検証し、塩硝蔵跡の戸室石、塩硝調合用の水車の石積みと思われる遺物などを確認し、館報などで報告しており、その抜粋がホームページでも公開されている。「金沢方式」の公民館運営の中から、崎浦地域固有の事業も生まれ、情報発信が行われている点に注目したい。

【飯田市公民館(長野県)】
http://www.city.iida.nagano.jp/shiko/index.htm
 飯田市には18地域にそれぞれ公民館があり、1.地域中心の原則、2.並立配置の原則、3.住民参加の原則、4.機関自立の原則の4つの運営原則で運営されている。また、体制研究委員会 、いいだ人形劇フェスタプロジェクト 、市民ネットワークプロジェクト、情報研究プロジェクト、条件整備プロジェクト、 自主研究プロジェクト「自然環境学習」を設け、プロジェクト体制で事業に取り組んだり、事業研究を行っている。 「各種活動の実践レポート」では、各公民館職員の手によるレポートが、最近5年分年度ごとに紹介されている。2002年度版には「新たな公民館の役割 〜市民ネットワークプロジェクト〜」 「『成人式』を若者の地域参加のきっかけに」「『りんごとみかんの住民交流事業』に取り組んでみて」「地域づくりへの一歩〜ふれあいスポーツ祭の取り組みから〜」「問題を拾ってつなげる講座を」「ジェンダー視点と土着的地域づくり」 「飯田市における公民館活動の特徴と課題」の7本が紹介されており、ホームページから飯田市公民館の姿勢や職員の熱意が伝わってくる。

【岡山市立中央公民館】
http://kouminkan.city.okayama.okayama.jp/tyuuou/
 岡山市では31ある中央公民館・地区公民館全館がそれぞれホームページを立ち上げ、個々に事業や活動などの情報を情報ボランティアとの協業により発信している。御南西公民館や西大寺公民館のホームページでは、地域活動や風土をボランティアが撮影し、動画で提供するなど公民館が地域情報の発信基地となりつつある。また、岡山市生涯学習支援システム(教育委員会生涯学習課が運営)により、市内の学習情報は一括してDB検索サービスを実施している。
 中央公民館のホームページは、中央館と2つの分室で実施している事業及び中央館で活動しているクラブ(H14年4月現在、85クラブ)の活動曜日別、分野別リストなど極めてシンプルなものになっている。
 しかし「新しい公民館づくり小委員会」のページでは、平成13年度からスタートした「新しい公民館づくり小委員会」の委員会議事録(第1回〜12回)、平成14年1月に提出した中間報告書、同年9月に提出した最終報告書が公開されている。この小委員会は公民館検討委員会(平成11年〜12年度に委員会9回。先進地視察2回等を実施)の答申を具体化するために設けられた。最終報告には公民館の運営や事業全般にわたって地域住民・利用者と公民館職員が共に企画・検討・実行していく協働の機関としての「運営委員会」の設置、運営委員会の独自財源の確保、公募を基本とする「専門委員会」の設置、地区公民館長の公募制、意欲と専門的能力のある館長・職員の配置などが提言されている。


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